「ゆっくり茶番劇」商標登録の法的解説
1 はじめに
最近YouTuberの方が「ゆっくり茶番劇」の商標権を取得したことが話題になっています。
批判コメントが続出し、署名サイトで商標登録の撤回を求める署名活動も起こっているようです。
私も高校生の頃から東方のファンになり、当時ゆっくり動画ばかり見ていたりしたのでこのような商標登録がされたことは残念でなりません。
とはいえ、そもそも商標権とは何か。何ができて、何が禁止されるのか。このような商標に異議を出すにはどうしたらいいのかといったことは分かっていない方が多いと思います。
そこで、今回は商標権について今回の事件も交えて解説したいと思います。
大学時代の知的財産法の教科書を引っ張り出してきている素人なので不正確な解説があればごめんなさい( ;∀;)
2 商標ってなに?
まず、商標とは、商品やサービスに着けられるマーク、ブランドのことをいいます。簡単に言えば商品やサービスの名前です。例えば、ポケット〇ンスターエメラルドとかです。
私たちが物を買う際にはその商品のブランド名を意識していることが多く、商標は商品を識別することを可能にする重要な役割を果たしています。商標があるからこそ私たちは商品を識別することができ、識別できるからこそ安心して品質の向上に努めることができます。
3 商標権とは?
このような商標を権利として保護したものが商標権です。
商標権とは、登録商標をその指定商品・指定役務について排他的に使用する権利です(商標法25条,平嶋竜太他著『入門知的財産法』p232)。
もし、指定商品・指定役務において同一の商標や、類似の商標が使用されているのであれば、商標権侵害が成立します。商標権侵害を行ったものに対して、侵害行為の差止め(36条1項)、商標を使用した商品等の廃棄、損害賠償請求を求めることも可能です。
4 じゃあ「ゆっくり茶番劇」を使ったらどうなるの?
今回は「ゆっくり茶番劇」が商標として登録され、商標権として認められています。
商標ライセンス契約により「ゆっくり茶番劇」の商標権者の同意を得えずに、ゆっくり茶番劇というタイトルの動画を投稿して収益を上げていた場合には動画の削除を求められたり、使用料を求められる可能性があります。
よくある誤解としては、ゆっくりを使用した茶番劇そのものができなくなるというものです。
商標権はあくまでその商品名等、商標を一定の範囲において保護しているだけです。ゆっくりを使用した茶番劇を投稿したとしてもゆっくり茶番劇と同名ないし類似の名称のタイトルを付けなければ商標権侵害は成立しません。
5 それじゃあもう「ゆっくり茶番劇」ってタイトルの動画投稿はお金を払わないとできないの?
商標権は登録出願がなされた場合に審査官が審査した結果、商標権としての要件を満たしている場合には、商標権として保護されることになります。
しかし、審査官も判断を誤ることがあります。
そこで、このような判断ミスへの対策として、登録されるべきでなかった商標が誤って登録されてしまった場合には登録異議申立て(商標法43条の2)や無効審判(46条)によって商標権を無効に、初めから効力が生じていなかったことにすることができます。
この申立てや審判が認容されるのであればお金を支払う必要はありません。
6 その無効審判は認められる?
登録異議申し立ては申立期間の制限があって申立てができないこともあるので商標登録無効審判について解説していきます。
無効審判を請求できるのは無効審判の結果と利害関係を有する者である必要があります。
今回の件でいえば、ゆっくり茶番劇で動画を収益化している場合には通常これに当たると思われます。
そして、無効としてもらうには無効理由が認められなければなりませんが、その中に商標が商標権としての登録要件(3条)を満たしていなかったことが挙げられます。
商標法3条1項は識別力のない商標の類型を定めておりこれに該当する場合には、商標権として認められないとしています。そして、6号においては、その他、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標を定めています。
今回の件についてみてみると、ゆっくり茶番劇はニコニコ動画といった界隈ではポピュラーなジャンルそのものの名称であり、私たち需要者はゆっくり茶番劇と聞いても特定の動画を認識イメージすることはできません。
したがって、この3条1項6号に該当するものとして登録要件を満たしていなかったと認められる可能性が高いと思われます。
7 まとめ
以上をまとめると、今回の商標権者は一応は有効に商標権を取得しており、ライセンス契約によらずに「ゆっくり茶番劇」といったタイトルの動画を投稿すると、商標権侵害が成立するおそれがあります。
しかし、この商標権自体は登録要件を満たしていなかったものとして審判が申し立てられたり、訴訟となった場合には無効であると判断される可能性が非常に髙いものと思われます。
このように商標法においては、今回の件は置いておくとして不当な商標登録を防止是正するための制度が整えられています。一般的に使用されている標章を商標登録してお金儲けをしようとしても結局出願費用や弁理士費用合わせて十数万円が無駄になるだけです。
今後似たような事態が生じた際には、本当に商標権として保護されるものなのかを考えてみても面白いかもしれません。
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